今回は、損益分岐点と事業の形態について解説します。
粗利益率を高めることが大切である理由。
前回は、財務上の数値の中に売上額と比較することで力を発揮するもの、粗利益と比較することで力を発揮するものがあることをお話いたしました。
また、必達の当期利益(=純利益)から積み上げて行くことで必達の粗利益を算出し、そこから必要売上額を求める方法についてもお話いたしました。
次に経営上注目すべき数字は、損益分岐点です。損益分岐点とは、『それ以上になれば利益が生まれ、それ以下になれば損失が生まれる売上額』のことです。つまり、赤字黒字トントンになる売上額のことです。
損益分岐点は一般的に次の式から求められます。
損益分岐点 = 固定費 / (1-変動費/売上額)
また、1-変動費/売上額 = 粗利益率 です。
よって損益分岐点は次式で求めることができます。
損益分岐点 = 固定費 / 粗利益率
非常にシンプルな式ですが、経営においてとても大切なことを表している式です。
先ほど損益分岐点について、損益分岐点を下回れば損失が生まれると説明いたしました。つまり、損益分岐点の額が小さければ小さいほど、その額を超えやすくなり、利益を生みやすい体質になるということができます。
よって企業が利益を生むためには、
①固定費を下げること
②粗利益率を上げること
の2つしかありません。
①を突き詰めると、人件費を削減することにつながり、ブラック企業になる選択をする可能性があります。そのためにも適正な労働分配率を担保する必要があります。
②に関しては、業種によって限界はあるかもしれませんが、企業が利益を上げるための本質と言えます。
やはり売上額に注目するのではなく、粗利益や粗利益率に注目することが大切であることがこの点からも明らかです。
事業経営の2形態
粗利益率を考えるとき、企業形態によって変動費が大きく異なるため、企業の事業形態について考える必要があります。
その事業形態とは、見込事業と受注事業の2つです。
① 見込事業:ハイリスク・ハイリターンの事業
見込事業とは、商品が売れる見込みで商品を購入し販売する事業のことです。
例えば、百貨店やコンビニなどなこれに当たります。商品を購入するため変動費が高くなり、粗利益率は基本的に低くなる傾向にあります。しかし、商品を製造している訳ではないので、人件費などの固定費は比較的低く抑えられるのが特徴です。
この事業では、とにかく売れる商品を販売することが事業の鍵になります。
もしも売れる見込みで購入した商品が全く売れなければ、変動費の額が大きいため経営が途端に傾いく可能性があります。しかし、ヒット商品を販売した場合、もともと固定費が少なく、粗利益内の固定費が少なかければ、利益を多く出すことができるため純利益が爆発的に得られる、ハイリスク・ハイリターンの事業とも言えます。
② 受注事業:ローリスク・ローリターンの事業
受注事業とは、顧客からの依頼があった後に商品を作成し販売する事業のことです。
建設業や、身の回りの例ではラーメン屋さんなどは受注事業と言えます。商品自体を購入するのではなく、原材料を購入するので変動費は低く抑えることができます。そのため、粗利益率を高くなる傾向があります。
この事業では商品も良いことはもちろんですが、顧客に繰り返し利用してもらえることが事業の鍵になります。
受注事業では、商品を作成するため多くの人件費が必要になり、粗利益内の固定費は高くなる傾向があります。そのため、純利益は低くなる傾向があります。受注事業が労働集約性事業と呼ばれる理由はここにあります。
お得意さんが一定数いれば、それに合わせて事業規模を調整することで比較的安定した収益を確保できるため、ローリスク・ローリターンの事業とも言えます。
全ての事業は2つの事業形態の色を持つ。
すべての事業はどちらか一方というわけではなく、どちらかの事業色が濃いというグラデーションを持っております。事業経営を行う場合、自身の事業はどちら寄りなのかを明確にした上で、他方の色も取り入れるようなバランス感覚が必要であり、このバランス感覚こそが経営者の手腕の見せ所でもあります。
では、病院経営は一体どちらの色が濃いのでしょうか?
病院経営は受注事業の色が濃い事業と言えます。なぜなら、患者さんが受診して初めて事業が成り立つからです。
一般的に受注事業は、粗利益率は良いのですが、労働集約性事業のため固定費が高くなり、純利益は思ったより高くなりません。売上高純利益率(=純利益/売上額)は一般的な受注事業の場合、3~7%と言われております。
ちなみに見込事業でヒット商品を販売した場合は、売上高純利益率が20%ほどになることもあります。この意味でハイリターンな事業と言えるのです。
医院経営では、粗利益内の固定費、多くは人件費、が非常に高くなる傾向があります。経営を行う上で、この人件費の適正化は常に意識する必要があります。固定費は払わなければならいないものですので、もし売上額が足りない場合は、変動費を下げる or 純利益を減らす、のどちらかで対応するしかありません。しかし、そもそも受注事業の変動費は少ないので、結局、純利益を少なくするしか方法はありません。しかし純利益が少なくなれば、そもそも組織を維持することはできなくなってしまいます。よって、売上額を確保する以外、生き残る術は無いのです。
以前、売上額 = 顧客数 x 客単価 x 利用頻度、という式を説明いたしました。
医療の性質上、客単価や利用頻度には限界があります。よって医院経営では、かかりつけ患者数を増やす以外に生き残る術はないのです。
かかりつけ患者さんの数を増やすべく、『正しいことを正しく行い、また受診したくなる医院』を作る。この基本的な姿勢こそが医院経営において最重要であることが、財務の面からも証明できます。