65歳以上の方で、最近、筋力が落ちてきた、体重が増えない、何だか疲れやすい、などを自覚される方はフレイルかもしれません。
今回は、このフレイルについてご説明いたします。
目次
今回の10秒まとめ。
① フレイルとは、「一度体調を崩すとなかなか回復できず、良くなったとしても体調を崩す前の状態には戻れない状態」のこと。
② フレイルは、「治療介入によって健康な状態を取り戻せる状態」でもある。
③ ロコモーティブシンドロームとは、「運動器(関節・骨・軟骨・筋肉)の障害によって移動機能の低下をきたした状態」のこと。
④ サルコペニアとは、「高齢期に見られる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下を認める状態」のこと。
⑤ フレイルには、身体的フレイル、精神・心理的フレイル」、社会的フレイル、の3つの要因がある。
⑥ 積極的な治療介入が可能なのは身体的フレイルであり、その原因がロコモーティブシンドロームやサルコペニアである。
⑦ 骨粗鬆症に対する治療・予防がそのままフレイルの治療・予防となる。
フレイル・サルコペニア・ロコモーティブシンドローム
フレイルを理解する上で、よく混同されやすい疾患である、サルコペニアとロコモーティブシンドロームを理解しその違いを知ることが大切です。
ロコモーティブシンドロームとは?
ロコモーティブシンドロームとは、2007年に日本整形外科学会が提案した考え方で、「運動器(関節・骨・軟骨・筋肉)の障害によって移動機能の低下をきたした状態」と定義されています。
移動機能とは、歩行や立ち座りなどを意味し、この運動機能が低下すると転倒のリスクや介護が必要となるリスクが高くなります。
加齢に伴い、骨・軟骨・筋肉は量的にも質的に減少し、様々な疾患が発症します。例えば、骨であれば骨粗鬆症、関節・軟骨であれば変形性関節症です。
その結果、膝痛・腰痛による運動機能の低下、転倒し骨折することで介護リスクの増加に繋がります。
改めて、加齢伴う運動器障害による運動機能の低下を「ロコモーティブシンドローム」と定義することで、これらは可能なかぎり早期に発見し、治療や予防に繋げ、健康寿命の遷延を目指すことを目的としています。
サルコペニアとは?
サルコペニアとは、ロコモーティブシンドロームの中で筋力の減少について取り上げた概念で、「高齢期に見られる骨格筋量の低下と筋力もしくは身体機能(歩行速度など)の低下を認める状態」と定義されています。
先ほどお話したように、加齢に伴う骨の減少には骨粗鬆症、関節・軟骨の劣化・減少には変形性関節症という疾患があります。サルコペニアは筋力低下に対応する疾患(状態)です。
筋力低下は移動機能低下や転倒リスクに大きな影響を与えますが、骨粗鬆症や変形性関節症と異なり明確な治療方針がなく、進行も意識しにくいものです。サルコペニアとして定義することで、意識しにくい筋力減少を早期に発見し治療・予防することを目的としています。
フレイルとは?
フレイルとは、「加齢による予備能力の低下のためにストレスに対する回復力が低下した状態」と定義されています。もう少し簡単に表現すると、「一度体調を崩すとなかなか回復できず、良くなったとしても体調を崩す前の状態には戻れない状態」です。
フレイルは「治療介入によって健康な状態を取り戻せる状態」であり、フレイルの段階で治療を行えれば健康は体を取り戻せるというものでもあります。
フレイルは、筋力低下・動作緩慢・易転倒を特徴にもつ「身体的フレイル」、認知機能障害・うつを特徴にもつ「精神・心理的フレイル」、独居・貧困を特徴にもつ「社会的フレイル」、の3つのフレイルが背景要因にあると考えられます。
この中で医療として積極的に治療介入が可能なフレイルが身体的フレイルです。そして、身体的フレイルの原因となるのが、運動器に着目した場合はロコモーティブシンドロームであり、筋力低下に注目した場合はサルコペニアである、といった関係にあります。
フレイルの症状は?
症状
- 筋力低下(握力:男性26kg未満、女性18kg未満)
- 易疲労感((ここ2週間)わけもなく疲れたように感じる)
- 動作緩慢(歩行速度 1.0m/秒未満)
- 体重減少(6ヶ月で2~3kg以上の体重減少)
- 活動性低下(軽い運動や体操をしていない、かつ、定期的な運動・スポーツをしていない)
上記の上な症状を認めた場合、フレイルの存在を疑います。
フレイルの特徴は?
特徴
- 65歳以上の高齢者の約10%に認める。
- 加齢より有病率は増加する。
- 女性は男性に比べ発症頻度が2倍。
- 糖尿病・心血管疾患・偏った食事・運動不足が危険因子
- 治療介入によって健康な状態を取り戻せる状態である。
65歳以上の方の約10%に認め、女性の方がフレイルになりやすいといった特徴があります。これは、骨粗鬆症の有病率が女性の方が多いこととも関係があります。
また、当たり前と言えば当たり前ですが、いわゆる生活習慣病の予防が直接フレイルの予防に繋がります。
そして大切なことは、治療介入によって健康な状態を取り戻せるということです。この観点からも生活習慣病の予防は非常に大切です。
フレイルの診断は?
診断
- 上記の症状のうち、3つ以上認める場合フレイルと診断する。
- 上記の症状のうち、1つor2つ認める場合プレフレイルと診断する。
簡易的な診断方法は、特徴的な症状から診断する方法です。
大切なことは診断することではなく、診断の結果早期に治療介入が可能となり、その結果、運動機能の向上しや介護リスクの低減させることです。
フレイルの治療は?
治療
- 食事と運動による筋力の維持・向上
- 生活習慣病の予防
- 骨粗鬆症の治療・予防
- 糖尿病・心血管疾患の治療
フレイルに対する治療において、もっとも介入が可能ものは身体的フレイルです。身体的フレイルに対する対応として重要なものは、筋力の向上・維持による運動機能の維持・向上です。運動機能が保たれていれば、そのことが骨粗鬆症の治療や予防に繋がりますし、そもそも骨粗鬆症の治療・予防には、週3回程度で少し疲れるぐらいの強度で20~30分ほどの歩行運動が挙げられます。よって骨粗鬆症に対する治療・予防がそのままフレイルの治療・予防となります。
<骨粗鬆症についての詳しい説明➡︎骨粗鬆症ってどんな病気なの?>
また、糖尿病や心血管障害の予防にも運動機能の維持は大切です。よって糖尿病や心血管障害にならないように食生活や生活習慣を見直し、定期的運動を心がけることがフレイルの治療・予防に繋がります。
糖尿病や心血管障害については下記サイトが非常に参考になりますので、ぜひお読みください。
<糖尿病>
<心血管障害(心筋梗塞)>