目次
今回の話の10秒まとめ。
① 変形性関節症とは、関節面の軟骨がすり減ってしまった状態のこと。
② 変形は治らないが、痛みはコントロールできる。
③ 「痛みを取る治療」と「痛まない環境を作る治療」を分けて考える。
③ 太ももの前の筋力upが痛みを減らし、進行を遅らせる。
④ 最近の治療の話題。ヒアルロン酸の注射は効果がないかも。
変形性膝関節症って何?
(今回は日本整形外科学会発行のパンフレット 整形外科シリーズ3 変形性膝関節症を用いて説明いたします。)
歩き始めや椅子から立ち上がるとき、または、階段を降りるときに膝に痛みを感じる。その痛みの原因はもしかすると変形性膝関節症かもしれません。
膝の痛みを感じ整形外科を受診された方はこの病名をお聞きになったことがあるかもしれません。でも変形性膝関節症ってどんな病気なのでしょうか?
関節とはご存知の通り、骨と骨が接続する部分ですが、接続している骨同士の表面は非常に滑らかな関節軟骨で覆われています。関節を使いすぎることによって、この関節軟骨がすり減ってしまい、しまいには軟骨がなくなってしまいます。この状態が変形性関節症と呼ばれる状態です。これが膝に生じたものが、変形性膝関節症です。
変形性関節症って治るの?
もしみなさんが「変形性関節症を治します。」といった表現を目にした場合、それは嘘だと思ってください。現在の医療では変形性関節症を治すことはできません。
このようにお話をすると「じゃあこの痛みは取れないの?」とがっかりする方もいらっしゃると思いますが、痛みはコントロールでき、場合によっては無くなることもあります。
勘違いしないでいただきたいのは、治ること=痛みが取れること、ではありません。変形性関節症は治らなくても痛みをとることはできます。
繰り返しになりますが、現代医療では、無くなってしまった関節軟骨を取り戻すことはできません。しかし、うまく痛みをコントロールすることは現代医療でも可能です。
「痛みをとる治療」と「痛まない環境を作る治療」の2つを行う。
変形性膝関節症で痛みを感じる原因は、関節の変形に伴う炎症や関節周囲の筋及び関節包(関節を覆っている軟部組織)の緊張が原因と考えられております。よって痛みを取り除くためには、炎症を抑えるために抗炎症薬の内服や、炎症を抑えるために副腎皮質ステロイド薬やヒアルロン酸の関節内注射を行うことがあります。また、炎症が強く腫れや痛みが強い時は、安静や冷却といった対応も必要になります。これらは「痛みをとる治療」と考えることができます。
これと同じ、もしくはそれ以上に大切な治療方針として、「痛まない環境を作る治療」があります。
大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)を鍛える。
この「痛まない環境を作る治療」がおろそかにすると、どんなに「痛みをとる治療」を行ってもなかなか痛みをコントロールすることができません。せっかく炎症をとるための治療を行っても、環境が良くなっていなければ、再び炎症が起こり振り出しに戻ってしまうからです。
変形性膝関節症において痛みを取る治療とは、大腿四頭筋(太ももの前の筋肉)を鍛えることです。
この大腿四頭筋を鍛えることは、痛みを取り除くことにも、変形の進行を遅らせることにも効果があると言われております。(→Quadriceps weakness and osteoarthritis of the knee.)
「痛みを取る治療」の中に安静があることや「体調が悪い時な安静にする」といった考えがあるからでしょうか、変形性膝関節症の方で極力歩かない、動かないようにしてしまう方が多くいらっしゃいますが、これでは逆効果です。歩いて痛みを感じる時も、プール内を歩くや自転車を漕ぐなどの、膝関節にかかるストレスは少ないけれど、大腿四頭筋を刺激する運動は積極的に行うようにしましょう。もちろん、腫れや痛みが強い時は安静が必要です。このバランスは主治医としっかり相談してください。
また、これらの治療を行っても痛みが取れない場合は、人工の関節に置き換える「人工関節置換術」という手術も検討する必要があります。
ヒアルロン酸の関節注射は意味がない??
最近、面白い研究結果が出ました。変形性膝関節症の患者さんを対象に、痛み止めの内服、ステロイド、ヒアルロン酸またはPRPの関節内注射、と偽薬をの効果を比べた研究を集めて解析した結果を示した論文です。(→Mixed Treatment Comparisons for Nonsurgical Treatment of Knee Osteoarthritis: A Network Meta-analysis)
その結果、関節内ヒアルロン酸注射は除痛効果や関節機能改善に関して関節内偽薬投与との差がなかったとのことです...
臨床現場では、患者さんから関節内ヒアルロン酸の効果を感じるという声を聞くことが多いのですが、なんとも残念な結果です。
しかし国内の研究では、関節内ヒアルロン酸の投与によって人工関節置換術を行うまでの期間を伸ばすことができたとする報告もあります。
保険の制度が異なるため、これらを比較することで一概に効果の有無を議論することはできませんが、日本のガイドラインではヒアルロン酸の関節内注射は推奨されております。
いずれにせよ、変形性膝関節症の疼痛コントロール及び進行予防には大腿四頭筋の筋力upは有効ですので、可能なかぎり歩くなどの運動を日常生活に取り入れるようにしましょう。