肩甲骨周囲の痛み・痺れを訴えて整形外科を受診される方で、腕まで症状の広がりを認める場合、頸椎症性神経根症を疑う必要があります。
(今回も日本整形外科学会が提供している、「頸椎症」のパンフレットを一部使用しております。こちらもお読みください。)
目次
今回の10秒まとめ。
① 頸椎症性神経根症とは、加齢によって頸椎が変形し、その変形が原因で神経根にダメージを与えた症状が出現した疾患。
② 片側性の肩甲骨周囲や腕の痛み・痺れを認める。
③ 頚部後屈で症状が増悪する場合、頸椎症性神経根症を積極的に疑う。
④ 症状の場所から傷んでいる神経根がわかる。
⑤ 治療の第一選択な内服治療と患部安静。
⑥ 不良姿勢が症状増悪の原因となり得る。
頸椎症性神経根症とは?
頸椎症性神経根症について理解を深めるために、まずは「頸椎症」と「神経根症」に分けて考えます。
頸椎症とは?
頸椎症とは、加齢によって頸椎が変形していることを意味します。
頸部には7つの頸椎と呼ばれる骨が集まり、脊柱管と呼ばれる神経の通り道を形成しています。
1つ1つの頸椎の間には椎間板と呼ばれるクッションがあります。
椎体の加齢性変化によって、椎間板が潰れ、横に広がり、それに合わせて骨も骨棘と呼ばれる出っ張りが形成されます。
このような変形を頸椎に認めた場合、頸椎症と診断します。
神経根症とは?
脊柱管内を通る神経には2つの名前があります。
神経の本幹で脊柱管内を首から腰にかけ通っているものを脊髄、脊髄から椎間孔(ついかんこう)という穴を通って左右の腕や背中そして足に分岐するものを神経根と呼びます。
この神経根が何らかの原因でダメージを受けたものが神経根症です。
同様に、脊髄が何らかの原因でダメージを受けたものを脊髄症と呼びます。
「頸椎症」+「神経根症」=「頸椎症性神経根症」
よって頸椎症性神経根症とは、「加齢性の変化によって頸椎が変形し、その変形が原因で神経根にダメージを与えた症状が出現した疾患」を意味する言葉です。
同様に頸椎症性脊髄症とは、「加齢性の変化によって頸椎が変形し、その変形が原因で脊髄にダメージを与えた症状が出現した疾患」を意味する言葉です。
頸椎症性神経根症の症状は?
症状
- 片側性の肩甲骨周囲及び腕の痛み痺れ。
- 上肢の腱反射低下。
- 上肢の筋力低下。
- 上肢の知覚鈍麻。
頸部脊柱管から上肢や背中に伸びる神経根は伸びた先の感覚や運動を支配しているため、神経根にダメージが生じると腕や背中の感覚や運動に障害が生じます。
もっとも多い症状は、痛みや痺れです。
頸椎症性神経根症の特徴は?
特徴
- 頚部を後屈すると症状誘発。
- 痛み痺れの部位からダメージを受けている神経根がわかる。
特徴として、頚部を後屈した状況で頭の先から下に圧迫を加えると、症状が出現or増悪することが挙げられます。
また、症状が出現している場所によって、ダメージを受けている神経根の位置がわかります。
頸椎症性神経根症の診断は?
診断
- レントゲンやMRIで椎間孔の狭窄を見つける。
- レントゲンやMRIで頸椎症性脊髄症など他の疾患を否定する。
- 特徴や症状から神経根症と判断する。
特徴的な症状や所見からある程度神経根症であるということは判断が可能です。
MRIにて神経根の狭窄の程度や、頸髄症などの他疾患を否定する場合もあります。
頸椎症性神経根症の治療は?
治療
- 抗炎症薬や神経障害性疼痛用の治療薬の内服
- 頚部安定のための頸椎固定
- 狭窄部解除のための手術
- 姿勢改善のための運動療法
治療の第一選択は、内服治療です。また、患部安静確保のために頸椎固定なども行います。
多くの場合、内服と患部の安静や後述の運動療法にて、数ヶ月以内に症状が改善します。
一定期間、上記を治療を行っても症状が改善しない場合、手術加療も検討します。
また、頭部が体幹に対して前方に出てしまう不良姿勢がある場合、頸椎の力学的負荷を増大させ、症状が増悪する可能性もあるため、運動療法の適応となります。