人間の持つ根源的な欲求の中で、関係欲求について説明します。
目次
自分を認めてもらうには、まず相手を認める。
前回、『人間的信頼を得ている人物は相手が根源的に持つ欲求を満たすような行動をとっている』というお話を致しました。そして、人間は本能的にその人物が信頼するに値するかどうか感じ取っています。何故なら、人間は生命体としては弱い存在であるため、生き残るためには集団生活を行わなければならない生き物です。つまり、人間は集団で生きるようにプログラミングされている生物です。
ではどのようなプログラミングがなされているのでしょうか?これに関わるのが関係欲求です。
関係欲求とは、『自分以外の他者から自分を認めてもらいたい、良好な関係を築きたい』と思う欲求です。他者に認めてもらうには、他者に接触しなければなりません。他者と接触することで、徐々に集団が形成されていきます。このように、関係欲求は生存に関わる集団形成に関わるため、非常に強い欲求と言えます。そして、『人間は自分の事を認めてもらいたいがために、自分の事を否定する人物を遠ざけ否定し、自分の事を認めてくれる存在だけを近づけ認める』という性質を持っています。また、自分の事ばかりを主張してくる他者を遠ざける性質も持っています。なぜなら、『自分の事ばかり主張する人物は、こちらの事を認めてくれない』と判断するからです。つまり、『自分を認めて欲しいならまず相手を認める』ことが必要です。また、『自分の事を主張する前に、相手の事を受け入れる』ことが大切になります。
関係欲求とは、言い換えると『自分に興味を持って欲しい』と願う気持ちです。つまり、人間は自分に興味を持ってくれる存在を信頼する傾向にあるのです。そして、『自分に興味を持って欲しい』をもっと具体的言えば、『話を聴いて欲しい、感情に共感して欲しい、考えや価値観を肯定して欲しい、結果や長所を褒めて欲しい、行動や活動に感謝して欲しい』という気持ちになります。人間的信頼を得るためには、まずは相手のこれらの気持ちを受け入れなければなりません。
関係欲求を満たす①:『全身で聴く』
これまで、『ちゃんとした話の聴き方』を教わったことはあるでしょうか?ちゃんとしたとは、言い換えると、『興味を持った話の聴き方』と言い換えることができます。
ここで、非常に興味がある話を聴くときのことを思い出してみてください。おそらく皆さんが思い出した光景は、『話している相手に対して正面を向き、話を聴き取りやすい環境を作り、一言も聞き漏らさないように全身を耳にして話を聞き、話を途中で遮らないよう注意して、適宜相槌を打ち話者のペースに合わせ、話の内容を自分の中で一旦受け止め反芻し、内容に共感する』のような状況ではなかったでしょうか。
つまり、ちゃんとした話の聴き方として大切なことは、話の内容に興味があるなしに関わらず、上記のような状況を作ることです。面白いもので、意識的に上記のような状況を作ることで、興味のなかった話にも興味が湧いてきます(末梢神経起源説:悲しいから涙が出るのではなくて涙が出るから悲しいetc.)。
1) 話者に対して正面を向く
正面を向くことは、話者に対して意識を向けていることを体現する方法として有効です。
2) 話やすい環境を作る
話者が心を許して話せる環境を作ります。何かの作業中であれば一旦手を止める、込み入った話であれば他の人が聞こえない場所に移動する、など話者を思いやった環境作りが大切です。また、このような環境を作ることで、自分自身もその話に集中することができます。
3) 全身で話を聴く
話を聴くときは全身を耳にしてことを心がけます。『聴く』という漢字は、『十四の心で耳を傾ける』と分解することができます。このように全身を話者に傾けるようにします。特に大切なのは『目』です。興味のある話を聞いているときは目が輝きます。目に意識を込め話を聴くことを心がけると、自然に姿勢も前傾になり、全身で話を聴く体勢が整います。
4) 話を遮らない
話者はそれぞれのリズムを持って話をしています。話の途中で口を挟むと、そのリズムが乱れ、伝えたい内容がうまく伝えられなくなります。最もやってはいけないことは、話者が話している途中に自分の話に切り替えることです。これをやってしまうと、話者の気分を害してしまい、信頼を獲得することはできません。
5) 適切な相槌を入れ、相手のペースに合わせる
先ほども述べたように、話者はリズム持って話をしています。歌を歌っているときに、いいタイミングで合いの手は入ると、歌っている人の気分がよくなり、声もよく出ることがあります。会話にもこれが当てはまります。話者にわかるように相槌を打つことは、話者の気分を良くします。話者のペースに合わせ、話者が気持ちよく話せるように相槌を入れていくことで、会話が弾んで行きます。
6) 話の内容を一旦受け入れる
話のの内容を頭から否定すると、話者の話す気分を害してしまい、会話が終わってしまいます。他者から認めて欲しいという欲求を理解し、相手の話の内容を一旦受け入れます。
その上で、自分の中でその考えを反芻し、納得できる部分は納得し、納得できない部分に関しては否定ではなく疑問という形で相手に投げかけるようにします。
7) 共感を示す
結局のところ、会話は感情の吐露に他なりません。会話の内容の背景には、話者の感情が隠れています。その感情をしっかりと捉え、その感情に対して共感を示すようにします。
以上の7つを心がけることで、ちゃんと話を聴くことができます。最終的には、相手の感情に共感することが大切です。
関係欲求を満たす②『感情に共感する』
『興味を持って話を聴く』とは、突き詰めると、『相手の感情に共感すること』です。人間が会話をする目的は2つあると言われています。
一つは情報の伝達です。もう一つは感情の伝達です。そして、相手の言葉の背景にある感情や欲求を理解し、共感することが人間的信頼得るためには非常に重要です。この共感の際、相手のペースに合わせ、適切に相槌を打つことが必要です。日本人はこの相槌が苦手です。会話の際に、実は話の内容に共感しているのに、その共感を示す相槌を打たない方が多くいらっしゃいます。でも、それでは意味がありません。共感しているということをしっかりと態度で示す必要があります。話し手は会話の最中、相手の相槌を見て話の内容に共感してくれているのか判断しているのです。よって会話の際、聞き手は話の内容をまずは受け入れ、共感を示すことが大切です。その上で、自分が感じたこと思ったことを、その後に伝えます。その時、相手を否定するような態度をとってはいけません。あくまで、話の内容に対して疑問や提案という形で、自分の考えを伝えるようにします。
また、話し手は聞き手が自分の感情に共感してくれていると感じると、気分が乗り話がどんどん弾んで行きます。その結果、1人ではたどり着かなかった『答え』に自らたどり着くことがあります。答えはすでに自分の中にあるものです。実は、『話し上手』は話が上手いのではなく『聞き上手』、つまり、聴くのが上手いと言われています。男性は特にそうですが、人は他者から相談を持ちかけられると、その相談内容に答え(正解ではなく自分の考え)を出したくなってしまうものです。しかし、相談相手の本心は『話を聴いて欲しい、その背景にある感情に共感して欲しい』と願う気持ちなのです。よって聞き手は、自分の考えを前面に出すのではなく、まずは相手のペースを合わせ、適切な相槌を示し共感の気持ちを表出することを心がけるようにします。
関係欲求を満たす③『純粋に褒める』
次に人間的信頼を得る方法として大切なことが、『褒める』ことです。この行動も日本人が苦手にしてるものの一つです。わざと褒める必要はないのですが、『純粋にすごいな』と感じたことは、その気持ちを恥ずかしがらず『すごい』と伝えることは大切なことです。そして、この『純粋にすごいと感じる気持ち』は『何かすごいところ、褒めるところはないか?』という目を持って相手を見たり、話を聴くことで湧いてくるものです。この気持ちを持つことが、褒める点を見つける上で非常に重要になります。
相手の得意な点は何か、相手がうまくいったことは何か、相手が好きな人・こと・ものは何か、相手のこだわりな何か、つまり、相手に興味を持つことが褒める点を見つける上で非常に大切になります。また、結果のみならずその結果に至るまでの過程にも着目し褒めることも重要です。そして、褒め方も注意しなければなりません。軽い雰囲気で褒めるのは、逆効果になるので注意が必要です。褒める時は、その根拠を加えると軽い雰囲気を無くすことができます。また、自分の気持ちとして褒める直接法以外にも、『他の人が〜の理由であなたを褒めていたよ』と相手に伝える間接法も、根拠を示す方法として効果的です。
関係欲求を満たす④『常に感謝する』
これも日本人が苦手にしてるものです。感謝の気持ちを表す言葉である『ありがとう』の語源は『有り難い』、つまり、『なかなかないこと』を意味するものだと言われています。
人間は『慣れ』の生き物と言われています。ある行動を繰り返し行うことによって、無意識にその行動ができるようになっていきます。このことを『馴化』と呼びます。この過程は生物として生き残るためには大切なことですが、一つ大きな問題を孕んでいます。それは、『有り難い』ことが『当たり前』なことになってしまうということです。つまり、『有り難い』が『当たり前』になってしまうと、物事に対する感謝の気持ちが薄れていってしまうということです。
医師としてこれまで、体調を崩された後に健康を取り戻した方が、その健康であることに感謝をされている様子を何度も見てきました。当たり前は決して当たり前ではありません。『自分の中での当たり前の基準を低く保つこと』が周囲にいつも感謝をして生きるコツです。そして、いくら感謝の気持ちを感じていても『恥ずかしい』と思ってしまうと、せっかくの気持ちを伝えられないこともあります。しかし、感謝をすることは決して恥ずかしいことではありません。むしろ、相手を喜ばすことができる素晴らしいことです。一度、自身がもっとも感謝の気持ちを伝えると恥ずかしい方へその気持ちを伝えて見てください。それをやったあとは、誰に感謝の気持ちを伝えてもそれ以上に恥ずかしいことはないでしょうから、感謝することが楽になります。『恥ずかしいと思う気持ちを捨て、自分の中での当たり前の基準を下げる』ことで、自らに感謝の気持ちを表現しやすいキャラクターを作っていくことを心がけましょう。
以上の4つの行動が自然にできるようになれば、自然と人間的信頼を集められるようになります。