職務契約書で職員のモチベーションを高める。
職務契約書を作るとは、与えられた仕事の意味と目的を明確にするための戦術です。
前回、組織における組織図の重要性についてお話をいたしました。組織図を作ることによって、組織内のメンバーが、①その組織が持っている機能の全体像をつかむことができ、②自分が置かれている状況と求められている働きを理解することができます。
次に組織がうまく動くために必要なものは、組織とその組織のメンバーの両者間で交わす『契約書』です。
組織とメンバーの間で交わされる契約書には2つの種類があります。
1つは、『労働契約書(雇用契約書)』です。もう1つは、『職務契約書』です。こちらはあまり聞いたことがない方も多いと思います。しかしこの職務契約書の作成こそ、組織の理念を浸透させ、メンバーのモチベーションを高めるきっかけになるものです。
労働契約書(雇用契約書)
『労働契約書(雇用契約書)』とは、組織とメンバーの間で、労働条件を明確にするために交わす契約書のことです。この契約書は、勤務時間・給与・休日などの労働時の取り決めについて確認する意味を持っております。労働契約書の本来の意味とは、メンバーが組織に対して『この契約書に書かれている条件であれば、自分の労働力を提供しますよ。』という、働く側の権利を組織に伝えるための契約書です。
野球選手が球団との契約交渉の際に『保留』の姿勢を示すことが多々あります。これは、球団(組織)に対して選手(メンバー)が「その条件では私の野球の才能(労働力)は提供できません」という意思を示しているのです。まさにこのやり取りが契約書の本来の意味を示しております。
職務契約書
では、『職務契約書』とは一体どのような意味を持った契約書のことでしょうか?
『職務契約書』とは、組織がメンバーに対して、職務内容、つまり、どのような働きを求めているかについて明確に示すための契約書です。
企業に勤めていらっしゃる多くの方は、ご自身や企業の『仕事の内容』つまり『何をやっているのか』は知っていらっしゃるのですが、『仕事の意味』つまり『なぜやっているのか』については知らないことが多いです。この『仕事の意味』を知ることは、その個人の仕事に対するモチベーションに関わる非常に大切なことですが、多くの場合見逃されています。職務契約書はまさにこの部分を明らかにするための契約書です。
つまり職務契約書とは、雇用者が使用者に対して『この組織の目的は〜であり、この目的を達成するためにあなたには〜な働きをお願いしたい』という、雇用者の思いを雇用者伝えるための契約書です。
組織図・雇用契約書・職務契約書の関係
ここで一度整理します。
組織図の作成はそれぞれの部署の仕事の「位置づけ」をはっきりさせる作業です。
雇用契約書の作成は、働く側がその労働力を提供するにあたり、組織との取り決めを定めたものです。
職務契約書の作成は、組織の目的やそれぞれの部署の仕事の目的を明確に示すためのものです。
繰り返しになりますが、組織がメンバーに求めていること、部下に対してすべきこと、上司に対してすべきことをはっきりさせることが職務契約書の目的です。そのためには、職務契約書の中で、組織内のそれぞれ部署やメンバーの役割について、「なぜこの仕事が必要なのか?」を明確にするものでなければなりません。そして、職務契約書を通じて組織のメンバーの一人一人が自分の役割を自覚すれば、先導者がいなくても仕事が進む自律した組織が作られます。
職務契約書が含むべき内容
このような大切な役割を持った職務契約書は、次の4つの内容を含む必要があります。
① 組織のなかで各部署が達成すべきゴール(戦略目標)
② その部署が責任を持って行うべき具体的な仕事 (戦術内容)
③ 各ポジションやメンバーがどのように評価されるか(評価基準)
④ 本人の署名 (主体性の確認)
重要なのは、職務契約書とは、仕事内容を記載しただけの書類ではなく、あくまで組織とメンバーとのあいだで取り交わす「契約書」ということです。いわば「ゲームのルール」をまとめたものであり、このルールブックに本人の署名をすることで、メンバーに責任感を持たせることができます。
また、採用時や部署の異動時、または毎期の初めに職務契約書を毎回作成し、担当者(採用担当・人事担当)と従業員とで確認し合う機会を設けるようにします。このように、度々職務内容について確認する機会を持つことが、理念を浸透させ、個人のモチベーションを高めることにつながります。